米国のハーパーコリンズ、サイモン&シュスター、アシェットで、生成AIを宣伝文や業務メールなどに使う動きが広がっていると報じられました。社員や文芸エージェントからは、利用方針の明確化と著者への説明を求める声が上がっています。サイモン&シュスターでは、業務分析ツールの導入検討にも社員が反対しています。
著者のAI利用には厳しく社内では活用
今回の取材記事は、出版業界で働く20人以上への匿名インタビューを基にしています。従業員の証言では、米出版大手5社のうち少なくとも3社で、ClaudeやChatGPTなどが宣伝文、書籍の裏表紙に載せる紹介文、マーケティング素材、文芸エージェント宛てのメールに使われています。
一方、出版業界では生成AIの使用を疑われた著者の本が刊行中止になる事例も取り上げられています。著者の原稿には厳しい姿勢を示しながら、出版社側は読者に届く文章をAIで作る。この線引きを著者や読者にどう説明するかが、今回の問題の焦点です。
ただし、小説本文の生成と宣伝文の作成は同じ行為ではありません。用途が違うからこそ、何を認め、何を認めないのかを具体的に示さなければ、社外からは判断できません。
宣伝文は単なる事務作業なのか
従業員の証言で目立つ用途が、書籍の宣伝文です。こうした文章は通販サイトや裏表紙で読者に届くだけでなく、書店、記者、書評家などへ本を紹介する際にも使われます。出版業務の裏方で作られていても、役割は作品と読者を結ぶことにあります。
サイモン&シュスターは、各部門の従業員が限られた種類の企業向けAIツールを利用できる一方、使用は必須ではないと説明しています。未承認ツールの利用は禁止し、著者と取り組む創造的な仕事に時間を振り向けることを目的に掲げています。
アシェットも、著者の本をより多くの読者に届けるための業務用途を支持するとしています。ただし、著者や取引先とのコミュニケーションを含む創造的な用途は支持しない立場です。従業員が語るメール作成の実態と、この方針がどこまで一致しているかは確認が必要です。
未公開原稿をどこまで入力してよいのか
文芸エージェントが懸念しているのは、紹介文や不採用通知を作るために、著者の未公開原稿がAIへ入力される可能性です。文芸エージェントは、著者に代わって出版社との契約や権利交渉を担います。取材に応じた一人は、原稿を大規模言語モデルに入力しないよう契約条項を追加したと説明しています。
ここでは、入力内容がどこへ送られ、保存されるのか、学習に利用されるのかを分けて考える必要があります。クラウド型のAIを使うことだけで、原稿が学習に使われたとは断定できません。今回の資料からも、各社の契約条件やデータ管理設定の詳細は確認できません。
ハーパーコリンズでは、原稿全文を外部のAIに入力してよいか尋ねた編集者に対し、法務部門が認めなかったという証言があります。懸念の存在と、実際に原稿が外部へ渡ったという事実は別です。後者を裏づける情報は示されていません。
効率化の提案が社員の反発に変わるとき
ハーパーコリンズでは、Claudeのライセンス導入後、社員が活用方法を探すための定例会議に参加するよう求められたとされています。サイモン&シュスターでも、2024年5月にAIの活用案を募る社内コンテストが開かれ、優勝者に1万ドル、ほかの入賞者2人に各5,000ドルの賞金が用意されたという証言があります。
こうした施策への不満は、AIの性能だけに向けられているわけではありません。人員削減で仕事量が増え、十分な人員や待遇を求めてきた社員に、さらに新しいツールの使い方を探す負担が加わったという声もあります。ただし、人員減や業務量増加の規模は匿名証言に基づくもので、各社全体の状況を示す統計ではありません。
効率化で生まれた時間を創造的な仕事に回すという会社側の説明と、人手不足を埋めるためにAIを使わざるを得ないという現場の感覚には隔たりがあります。導入の評価には、作業時間だけでなく、社員の負担が実際に減ったかという視点も必要です。
業務分析ツールの検討で表面化した不信
サイモン&シュスターでは、Skan AIの製品を検討していることが社員の反発につながりました。社員はCEOのグレッグ・グリーリー氏への公開書簡に署名を集め、同種のソフトウェアを業務に導入しないよう求めています。作業の監視に加え、自動化できる業務を見つける機能が、人員の置き換えにつながることを懸念しています。
宣伝文を下書きするAIと、従業員の業務を分析するツールでは、導入の意味が異なります。後者を巡る対立は、出版社のAI活用が文章作成の補助にとどまらず、仕事の配分や雇用への不安にも及んでいることを示しています。ただし、今回の検討が人員削減を目的としていると確定したわけではありません。
グリーリー氏は社員向けの文書で、Skan AIのBlueprintを検討していることを認める一方、同製品やほかの生産性監視・業務分析ツールを使用する決定はしていないと説明しています。


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