AI企業のAnthropicは、自社の従業員構成と仕事の中身がこの1年で大きく変わったとする報告書を公表しました。技術部門に占める若手の割合は2025年初めの21%から14%に低下し、従業員1人あたりの会議時間は前年より20%増えたといいます。AIで作業が速くなるほど、人が顔を合わせる時間が長くなる。意外な組み合わせです。
若手技術者の比率が下がった背景
まず数字を整理します。報告書によれば、技術部門に占める若手社員の割合は、2025年初めの21%から14%へ下がりました。落差がより大きいのは採用です。技術職の新規採用者に占める若手の割合は、27%から9%まで縮んでいます。
全社に占める技術部門の比率も61%から56%に下がりました。同社はこの動きについて、会社の成長に伴い事業部門が自然に広がったことと、コーディングツールの進化で非技術職の社員が自分でソフトウェアを作れるようになったことを理由に挙げています。
ここは読み方に少し注意が要ります。これは1社の数字であり、世の中の企業が同じ道をたどるとは限りません。ただ、AI開発の最前線にいる会社が自社の働き方をここまで開示するのは珍しく、変化の方向を探る材料としては十分に興味深いものです。
若手が担ってきた定型的なコーディングや下調べの一部をAIが肩代わりすれば、採用の入口が狭まる。そんな構図は想像しやすいところです。一方で、非技術職がソフトウェアを作り始めている点を見ると、職種の境目そのものが薄れているとも言えそうです。
増えたのは成果だけではなく見守る時間
報告書では、AI活用で生産性が上がったことも示されています。1人あたりのコード量が増え、営業担当者が成約する件数も増え、契約の処理数も伸びたとしています。同社は、コードが増えたからといって品質や事業への効果が高まるとは限らないと認めつつ、コードの質が落ちている兆候は見つかっていないとも述べています。
興味深いのは、社員の実感です。2026年4月の従業員調査では、27%が同社のAI「Claude」のおかげで生産性が上がったと答え、20%が仕事の中心が「実際に作業すること」から「複数のClaudeを管理すること」に移ったと答えました。
ある技術者は、この状況を子守にたとえています。子どもが何人もいれば、それぞれが同じ強さで注意を求めてくる。複数のClaudeも同じだという感覚です。別の社員は、とにかく速く動き、何でもClaudeに任せるよう迫る「終わらない圧力」が社内にあると語ったと伝えられています。
報告書は、Claudeが大量の文章を生み出すため、それを読み、整理する人間の注意力と判断力が生産性のボトルネックになりつつあるとも指摘しています。作る側の速度が上がるほど、確かめる側に荷重がかかる。工場のラインで、ある工程だけが速くなると次の工程に在庫が積み上がる様子とよく似ています。
AI時代に会議が増える理由
もう一つの数字が会議です。カレンダーデータの分析では、従業員1人あたりの会議時間は1年前より20%増え、技術職の個人貢献者に限っても16%増えました。
同社はこの理由を、人間同士の信頼と責任の重要性に求めています。社員たちが、対面でのすり合わせは欠かせないと繰り返し語っているそうです。AIが下書きや実装を瞬時に出してくれても、その結果に責任を負うのは人であり、責任の所在を確かめる場は結局、人と人との会話になるということでしょう。
効率化というと、会議が減って個人の作業時間が増える姿を思い浮かべがちです。しかしAIを深く組み込んだ職場では、作業が減る代わりに判断と調整の比重が増え、その舞台として会議が使われています。
若手の採用が絞られ、会議が増え、人はAIの管理役に回る。この組み合わせが他の企業にも広がるかどうかは、各社がAIをどこまで業務の中心に据えるかで変わってきます。ただ、AIの導入を検討する経営者やマネージャーにとって、自社で増えるのは何か、減るのは何かを先に見積もる視点は、Anthropicの数字から持ち帰れる材料になりそうです。


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